まずは型にはめる
このテーマでは、日頃からお悩みの「部下の育成」についてお話ししたいと思います。
このタイトルをご覧になって、ドキッとされた方もおられるのではないでしょうか。
よく「型にはめる」というと、イヤなイメージを持つ人が多いかも知れませんが、どうか最後までお読み頂ければ幸いです。
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「型にはめる」ということは、決して悪いことではありません。
そのことで、部下の人達は著しく成長しますし、仕事の本質をわきまえて最速で成長します。
そして、お客様に対して良い仕事が出来るようになります。
どの有名な企業でも、入社早々の新入社員には必ず「新人研修」を行います。
これも、「型にはめる」内のひとつです。
その期間はまちまちですが、長い会社では1年というところもあります。
そのプログラムの内容は、それぞれの会社によって違いはありますが、メインは会社の経営理念です。自社の存在理由です。それがその会社の業務全てに関係してくるからです。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるほどに、新人の内の研修は重要です。
きっとあなたも入社当時は、この研修を受けられたはずです。
今あなたの部下として配属されている人達も、その研修を通過してこられたはずですよね。
でも、それならば何故、あなたは「研修済み」の部下達に苛立つことが多いのでしょうか?
それは、全社的な新人研修では、どうしても総花的な教育しか出来ませんし限界があります。
しかも、具体的な日常の業務教育は出来ませんので、そのことは、それぞれの部や課に属してから、現場の学びをさせるようにしているのです。
だからこそ、中間管理職が必要ですし、あなたの出番になります。
新人も配属されてからしばらく経つと、慣れが出て来てそれぞれの<地>や<我>が出て来ます。研修してきた大切なことも少しずつ希薄になっていきます。
その様な彼らを育てるためには、現場の基本を徹底的に叩き込まなければなりません。そのために、「型にはめる」のです。
1.仕事に対する基本的な「考え方」を叩き込む。
2.所属する部や課の「具体的な仕事の基本」を叩き込む。
この1.と2.を部や課で教育するのですが、大抵の中間管理職の方は部下に「基本」を教え込んで行くときに、まずぶつかるのがこれです。
「こんなことまで言わないと分からないのか?」
「こんなことから教えないとダメなのか?」
「こんなことは常識だろ!家や学校でなにを習ってきたの?」と。
これが何度も何度も繰り返されると、訳の分からない者を相手に育てるなんて、本当にイヤになってきます。
まさに「背雪埋井」の境地です。そして、次第に教える側の熱が冷めてきますし、気持ちも萎えてきます。
ついには、「もう子どもじゃないんだから、自分で考えてやれるだろう・・・。」と、だんだんと放任する様になります。
口やかましく言うのをやめていくことで「部下の育成という大任」が、次第におざなりになっていきます。
そして、ほとんどの会社でやってしまっている大きなミスに嵌ってしまいます。
その大きなミスとは、<一人前でない部下に、それぞれのマンパワーに頼って仕事をさせてしまっている>ということです。
しかも、一番大切な基礎の部分が出来上がっていない、まだ半人前の人間に仕事を任せることになります。
つまりは、ほったらかし状態になり、その部下は「自分のやり方で良いから、何も言われないのだ。」と、都合の良いように判断してしまいます。
これが、後々に大きな禍根を残すことになりますし、しかもその新人の成長は、かなり遅くなってしまいます。
こうならないために、「育成」の良い方法が「型にはめる」ことなのです。
キチンとした「教育」の手順を考えるとき、家を建てるときの段取りがとても参考になります。
a. 先ず、どの様な家を建てようかとのイメージを作る。
【これが一番重要です。どのような部下になって欲しいかというイメージをしっかりと決めることです。】
b. 決まったら、それに基づいて設計図を書く。
【管理者がそのイメージを文章化することで、よりハッキリとします。】
c. 完成までの手順書を作る。
【教育・育成の手順書(カリキュラム)を作る。】
d. 設計図と手順書に基づいて、資器材を計算する。
【教育するための必要な資料を整える。(テキストを作る)】
e. おおまかな予算と、完成までのタイムスケジュールが立つ。
【何時までに何を教えるかのタイムスケジュールを作る。】
f. それでオーケーだったら、関係部署への手続きや資器材の手配をする。
【上司や組織運営上に必要な部署に確認をとる。】
g. 基礎工事に取りかかる。
【徹底した教育・育成を実施し始める。】
h. 1階部分、2階部分(上屋)を完成させて棟上げをしていく。
【次第に教育内容の難度を上げていく。】
i. 内装を施し、建具の設置をする。
【完成に近づける。】
j. 最後に検査をする。
【仕上げる。テストをする。】
k. 施主さんに引き渡す。
【あなたの上司に教育カリキュラムの最終報告をする。(この報告は中間点でも何回か報告をして確認を取っていくこと。)】
l. ここへ至るまでに、設計図との相違があった場合は、すぐにやり直しをさせる。
【徹底的に基本通りに実行させる。】
このように見てみると、家を建てる時と本当によく似ていますでしょ。
キッチリとシステムに則った手順で進めることで、早く、均質な育成が出来ることがお分かり頂けたのではないでしょうか。
設計図も示さず、計画もあやふやで、基礎工事もしないで、自分のイメージしている家が建つわけがありません。
「このような部下に育って欲しい!」と願う人材が育つわけがありません。
徹底的に基本を教えもしないで好きなようにさせておいて、部分部分において「ここが違う!」「ここはダメだ!」と言われても、大工さんはどのようにすれば良いのか判断がつかないし、イメージも湧きません。
設計図を見せてもらっていないその大工さんは、施主さんの建てたい家のイメージは分かりませんから、放っておくと自分のイメージに合った家を作ってしまいます。
そのイメージの違いを指摘されても、大工さんは戸惑うばかりです。これでは、いつまで経っても施主さんが望んでいる家は建ちません。
あなたは、その家を建てることを任された現場監督のハズです。大工さん達の協力を得て、設計図通りのりっぱな家を建てなければなりません。
嫌がられても、「自分の設計図に基づいた指示を出し続ける」ことが必要です。
ましてや、「自分の設計図」のない上司は最悪であります。箸の持ち方から上げ下ろしまで、事細かく指示を出し、基本を叩き込んで、型にはめるのです。
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型にはめていく時に、ひとつの項目毎に、「何故、この基礎をしなければならないのか?」の丁寧な説明をすることは必要ですが、部下を納得させられるかどうかは、特に気にする必要はありません。基本的には納得も説得も必要ありません。
ましてや、そのことが好きか嫌いかなんて、まったく関係ありません。
何故ならば、これは業務指示であり業務命令なのですから、遠慮することはありません。
基本を叩き込むためなのだから、
その部下が、お客様から支持される一人前のビジネスマンになるためなのだから、
その部下の今後の人生のためなのだから、
だから型にはめて、徹底的に教育するのです。
とは言っても、ブーイングも含めて、多くの問題点が噴出するはずです。
当然それは、想定内です(笑)。
そのために、これらの教育プロセスの中で、疑問に思ったことや違和感を感じたことなどをメモしておく「問題点ノート」を、一人ひとりに作成させます。
そのノートには、教えてもらったことの書き込み以外にも、会社への要望や不満、同僚の問題、自分自身の反省・悩みなど、何を書いてもオーケーにします。
ですから、そのノートに基づいての対応は、「個人面談」でやります。ひとつのステップが終わった時に、面談をすると良いでしょう。
その面談で、一人ひとりの部下の進捗状況がよく把握出来ます。ひょっとしたらその君の性格まで判るかも知れません。
部下によって、問題点が多い少ないはあると思いますが、個人面談で拾った問題点はあなた自身もメモをしておき、全員の面談終了後に、各自に配布します。
もちろんプライバシーに抵触するようなことはモザイクが必要ですが。
何故か? 問題点を全員で共有するためです。これは後々とても役に立ちます。
沢山の問題点を矯正や改善する場合は、一度に全ては出来ないので、優先順位の高いものから指導し、解決をしていくと良いでしょう。
これも、ほぼ全員が対象になる案件と、個人の案件とに分かれると思います。
内容は別として、「全て、指示通りに動いてもらう!」という指令を出すことです。
何度も言いますが、これは「業務命令」なのですから、絶対服従です。
そして、指示は<具体的な指示>を出し続けることです。曖昧で抽象的な指示だと部下は迷います。
例えば、お得意様への挨拶回りの時のノックの仕方、頭を下げる角度や姿勢、声の大きさなど、事細かな具体的な指示です。
「相手に失礼の無いように振る舞うこと」という抽象的な指示では、ダメなのです。
組織全体のレベルアップがなされないと、良い仕事が成就できないのは自明の理ですから、ここに書かせて頂いたことは、大変でもやり続けなければなりません。それがあなたの仕事なのですから。
上記のことをまとめて、あなたがしなければいけないことを書き出してみます。
1.あなたの経験上、このような部下に育って欲しいという理想のイメージを作り上げる。
2.そのイメージに基づいて、育成マニュアルを作るために思いついた事柄を、ランダムに、思いつくままに、いくつでも書き出す。細かいことでも良い。
3.それを整理して体系化して、学習させる手順を組む。目次作りをする。
4.目次の一項目ずつの、具体的な指示に基づいたマニュアルを作成する。その後ろに小テストを作っておく。
5.それを続けて、最後の項目を書き上げたら、マニュアルは完成する。
6.全編のタイムスケジュールを組み上げる。
確かに、中間管理職は本当に大変なお仕事です。
もし、このような現場レベルの育成マニュアルが存在する会社は、非常に優秀だと思いますし、きっと社会からも高い評価を得ておられることでしょう。
弊社も以前には、お恥ずかしい話ですが、部下の育成が遅々として進まない時代がありました。
その原因を精査すると、各部にキチンとした育成のためのマニュアルがなく、中間管理職がその時々に思いつきで指導したり、入社当初の初期研修を応用したり、それをアレンジしてお茶を濁していることが判明しました。
それに、どの様な部下に育って欲しいのかという私の質問に対して、ポツンポツンと断片的な言葉しか出て来ません。
そんなことでは、スピーディで、一貫した教育が出来る訳がありませんよね。
そこですぐに、各事業部ごとに作成をさせました。そして、四半期に一度、見直しチェックを行いました。
そのことによって、末端のスタッフのレベルが大幅に上がったのは言うまでもありません。
あなたの会社や部署には、このような新人向けの育成マニュアルはありますでしょうか?
あるとは思いますが、もし無ければ、あなたが作成しなければなりませんし、現在あるマニュアルをあなたが読んでみて、不十分なら手直しをしなければなりません。
もちろんあなたの上司に相談した上でですが・・・。
でも、これを実行して行く間は、あなたは部下たちから浮いた存在になっている様に思うかも知れません。
異質な自分に不安や孤独を強く感じるかも知れません。(上司と部下は元々異質なものなのですが・・・。)
部下たちの仲間に同化してしまいたい心理に駆られるかも知れません。
辛い立場になることは間違いありません。
しかし今、あなたが一番しなければならないことは、「部下の育成」というその大変なことから逃げないことであり、やり切ることであります。
これらをやり切った後、あなたから見て、その部下が基本をある程度マスターした時に、その苦しさから開放されます。
後は、経験を積ませてあげるようにするだけで良いのです。
それから後は、確実に「お客様」がその部下を育てて下さいます。
あなたは時々に、必要なアドバイスを与えるだけでよいのです。
見事そうなった時は、その苦しみは次に、その部下が自分の部下を持つようになった時に担っていくことになります。あなたを育てた上司があなたを育てた時のように・・・。
このルーチンワークは企業が存続する間、延々と続いていきます。
「部下の育成」について
さて、最後に「部下の育成」について大切なお話しを致します。
<部下を育てるためには、基本を叩き込む。まずは型にはめる>という、多少センセーショナルな表現をしてきましたが、しかし、これは本当に重要なことです。
「基本を覚え込ませるには、徹底的に型にはめる!」
これを軽んじてはいけません。
スポーツであれ、趣味であれ、勉強であれ、仕事であれ、実はみんな共通していることなのです。
しかしながら、一番心に留めておかなければならない重要なことは、基本を叩き込む時も、型にはめる時も、部下に<愛情をもって接しなければならない>ということです。
これを、その心が伴わない作業レベルで行ってしまうと、とんでもないことになってしまうかも知れません。
大切なことは、「部下の育成」は誰のためにするのかということです。
当然、「部下」のためです。
部下が成長し、仕事の本質をわきまえて、お客様に対して良い仕事が出来るようになるためです。
そのことで、もちろん会社の業績が上がったり、あなたの部署の成績が上がったりするでしょうが、それはあくまで結果論です。
そして、決して威圧的に接してはいけません。
部下はあなたの手や足ではなく、ましてや部下はあなたの成績を上げるための道具ではありません。
部下がお客様に良い働きをしてくれるから、売り上げが発生するのです。
発生した売上げがあるから、あなたのお給料の原資に出来るのです。
つまり部下の人たちは、あなたにとって一番身近なお客様であるとも言えます。
教育や育成というのは、あくまでも、その部下に仕えるという姿勢で臨む「仕事」でなければならないと思います。
(この「仕事」については、詳しくは「仕事に行き詰まった時」のカテゴリーの中のテーマ「そもそも仕事とは」をご覧下さい。)
確かに、責任重大な中間管理職は本当に大変で苦しいお仕事ですが、上司は部下の人生を預かっています。
その部下を慈しみ、人間の尊厳をわきまえながら「部下を育成する」ことで、結果、あなた自身の可能性を広げ、あなたが一番育てられて、大きく成長させてもらえることになるのではないでしょうか。
「育てるということは育てられること」「教えるということは教えられること」なのですから。
あなたのご成長を心から期待しています。
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